BLUE SPRING


 さて、誰にでも青春時代というものがあったことと思う。青い春。青臭い春。

「あの夕日に向かって走ろうじゃないか!」

これが青春。しかし、これが青春というならばあまぎさんにはなかった。
まぁとりあえず、青春の件は置いといて。

よく、聞かれることがある。それはハンドルネームについて。

ハンドルネーム:あまぎ

あまぎってなに?最初の質問はほぼ間違いなくこれだ。
本名とはまったくもって関係ない。そして、例外なく最初は「天城」だと思われる。
近年は「天城越え」という歌があるが、誰が歌っているのかさえ知らない。
九州に住んでいたら「甘木」と思うかもしれない。地名だ。どの県だっけ。
また、天城(てんじょう)と読めば、ホイッスル!の登場人物だ。誰かわからない?ググるといいだろう。
フルネームは天城燎一だ。

 少し話がそれたので戻す。どこから説明すればいいのか。
そう、大学時代。4回生の頃に遡る。
その頃、あまぎさんは大学から徒歩3分の場所に住んでいた。コンビニに至っては2分。
図らずも自宅はたまり場になる。4回生になり、就職活動のためバイトをやめた。
昼まで寝て、午後に卒業研究。夕方から明け方まで遊ぶ。そんな日々が続いた。
不思議なもので人は趣味趣向により、グループに分かれる。あまぎさんは複数のグループに属していた。
その中のひとつに「ゲーセン組」があった。そんな呼び方はしてなかったが、いいようがないので仮にこうつける。
あまぎさんはゲーセン組に属してはいたものの、大学生になるまではゲーセンに行った事が数えるほどしかなかった。
滋賀の田舎にはゲーセンなどなかったのである。あるのは百貨店のUFOキャッチャーくらい。
同じ授業で仲良くなった奴がたまたまゲーセン組だった。おもしろいゲームがあるからついてこいという。
そのとき出会ったのがドラムマニアであった。ようは音ゲーと呼ばれるものである。
ドラムマニアがあーだこーだはまた別の機会に。しかし、あまぎさんをゲーセンに連れ込んだのは間違いなくそいつだった。
そして、いつものようにそいつとゲーセンに行くと、見慣れないゲームがあった。

機動戦士ガンダム 連邦VSジオン(以下略:連ジ)

タイトルはそう書いてあった。あまぎさんはガンダムの存在自体は知っていたが、なんなのかはまったく知らなかった。
登場人物の顔と名前が主人公でさえ一致しないレベルだった。
だが、そいつは「このゲーム、ペアでできるから一緒にやろうぜ」と誘ってきた。
田舎者のあまぎさんにいろいろ教えてくれたそいつの誘いを断るわけもなく、承諾した。
しかし、玉のついたレバーとボタンにまったく慣れていないため面白いほど死んだ。役に立たない仲間。逆に足を引っ張りまくっていた。
もちろんクリアできるはずもない。
あまぎさんがその頃ゲーセンでできるゲームはドラムマニアだけだった。
試しにひとりでやってみた。最初のステージで死んだ。俺には向いてないなと直感で思った。
それでも、そいつは俺を誘ってそのゲームを何度もやった。何度も何度も。
そうするうちになんとかクリアできるまでになった。ただし、協力して。ひとりではまったくだった。
連ジにはモードが2つある。1人〜2人でストーリーを進めるモード。もう1つが2〜4人で対戦するモード。
この日、あまぎさんとそいつは初めて見知らぬ2人と対戦することになった。
相手はやりなれているようで、まったく歯が立たなかった。
連れであるそいつは憤慨し、もう一度やろうと言った。俺も承諾した。
連ジはプレイする前に名前が登録できる。カタカナ8文字で。
いつもはデフォルトの名前なのに、そいつはなんかあまぎさんの知らない名前をつけた。
あまぎさんも真似して名前をつけることにした。しかし、なんてつければいいのだろうか。考えたこともなかった。
何かないか・・・。周りを見渡した。ふと、ドアが目に付いた。ガラス越しに外が見える。外は雨が降っていた。
不意に透明なレインコートをきたゲーハーが自転車で横切った。少しおもしろかったが、はしゃいでいる場合ではない。名前を決めないと。
名前、名前。どうにもゲーハーレインコートが頭から離れない。
ゲーハー。・・・却下。あとー(のばし)は打ちづらい。
レインコート・・なんか長い。ー(のばし)はいや。
レインk、かっぱ・・・なんかいやだ。ゲーハーではないか。
かっぱ、雨着。あまぎ?・・・これでいっか。
50円を筐体にいれて、名前を入力した。

アマギ

おぉ、カタカナにしたらなんかちょっとかっこいいではないか。これでいこう。いざ雪辱を晴らす!
まぁ、やっぱり負けた。勝負の世界はそんなに甘くない。50円であってもお金かかってるし。
こうして、あまぎさんのハンドルネームは決まった。感動の瞬間だ。

その後−
掲示板というものもこの頃初めて知った。掲示板に書き込むときも「アマギ」。ゲーセンでも「アマギ」。
そうすることで、ゲーセンで「アマギさんですか?」と声をかけられるようになった。
ゲーセンでカルチャーショックを受けるとは思わなかった。なんてったって顔も見たことない人に声をかけるなんてこの頃のあまぎさんには
考えられないことだったから。不思議といやな気持ちにはならなかったし、いろいろな人と打ち解けていった。
そして、あまぎさんの原型は完成した。この数年後、あまぎさんはあるチャットに出現する。ハンドルネームをあまぎと名乗り、
ゲーセンで知らない人に声をかけられたように、今度は自分から話しかけていく。新たな出会いを期待して。

ちなみに、「blue spring」をヤフで翻訳すると「憂鬱な春」になる。わーお、期待はずれ。
みたいな。


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